快闘キッドのメモ帳

文学作品、翻訳作品、自作小説等の保管庫

新浦島

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浦島丈太郎

 

都内のある街に、それはそれはイケメンの学生、文京丈太郎が住んでいた。
そのノイケメンぶりに独身の若い女性だけでなく人妻ですら話をすることができず、ただ顔を赤らめるほどだった。
ある日、丈太郎は古本を物色しながら一人神田町を歩いていると、細い路地の奥から女性の声が聞こえてきた。
不思議に思って丈太郎が路地にはいると、一人の可愛い女性が二人の学生にナンパされていた。
その女性は何度も断るのだが、二人の学生は一向に止めようとしない。
丈太郎は体格が良く少林寺拳法有段者で腕っぷしに自信があったので、思わず「おい、なにをしている」と声をかけた。
二人の学生は、突然声をかけられ、振り向くと背が高くイケメンで体格の良い丈太郎を見ると物も言わず逃げるように路地から表通りに走り去った。

助けられた女性は丈太郎の顔を見て真っ赤になりうつ向いたまま黙っていた。
心優しい丈太郎は「大変でしたね、家まで送りましょうか」と声をかけた。
気を取り直したその女性はようやく声を出し「ありがとうございます。一人で帰れますので・・・」
と恥ずかしそうに答えると路地の奥に向かって歩いて行き、角を曲がるとき丈太郎のほうを見て頭を少し下げて姿を消した。

数日後の夕方、丈太郎が新宿駅前を一人歩いていると、向こうから可愛い女性が歩いてくる。その顔を見てすぐに先日助けた女性であることが分かった。

女性は微笑みながら歩いてきて丈太郎の前で立ち止まると

「先日はありがとうございました。バイト先のマダムが是非お礼がしたいと申しております。一緒に来ていただけますか」
ちょうど、夕食をどこで食べようか迷っていた丈太郎はついていくことにした。

店は隣町の繁華街のさらに奥、ネオン街の片隅にあり、赤いネオン看板で 「竜宮」とある。
店の印象は何やら男心をくすぐる雰囲気のある小奇麗な店だった。
その女性に案内され中に入ると、奥から丈太郎より少し年上と思われるマダムと呼ばれる美しい女性が出てきた。
「先日はうちの子を助けていただきありがとうございました」
この店の子は源氏名で呼ぶことになっていて、助けた女性の源氏名は華美羅、マダムの源氏名は乙姫といった。

丈太郎はマダムに連れられ一番奥の少し広い部屋に案内された。

その部屋には小さな舞台があり、静かな音楽が流れ、薄暗く赤や青のランプがゆっくりと点滅していた。
テーブルの上には海の幸、山の幸が、中華料理、洋食、和食と所狭しと並べられている。
丈太郎が席に着くと、乙姫と華美羅が隣に座り、舞台では肌が透けて見えるほどの薄い衣装をまとった五、六人の美しい女性が踊り始めた。

美しい女性に挟まれ、豪勢な料理を前にして丈太郎は少し怖くなった。

乙姫は丈太郎の顔を見ながら嬉しそうにグラスを渡し「さあ召し上がれ」とにドン・ペリニヨン ロゼを注いだ。
いつも安酒を飲んでいる丈太郎には、これまで口にしたことのないほどドンペリは美味かった。
あまりのおいしさに、つがれるまま飲み干していると、ついつい眠くなりそのまま寝込んでしまった。

ふと目を覚ますと、薄暗い部屋の大きなベッドの上で裸で寝かされていた。
隣には一糸まとわぬ乙姫が丈太郎の顔をじっと見つめている。

白磁のような白い肌、ルビーのような赤い唇、長いまつげの濡れたまなざし・・・

覚悟した丈太郎は大学に通うことも忘れて毎晩乙姫との楽しい時を過ごした。

しばらくすると、華美羅が丈太郎の耳元で「そろそろお帰りなった方が良い」と囁いた。
名残惜しいと思いつつも、いつまでも大学をさぼる訳にもいかないので華美羅の言うとおりにした。
店を去る時、乙姫は「途中で中を見てはいけません」と小箱を丈太郎に渡した。
外に出ると一瞬めまいがした。

黄色い太陽が眩しかった。

 

部屋に帰った太郎は、夢のような数日間の出来事を思い出していた。

しかし手には小箱がある。

やはり夢ではない。

恐る恐る箱を開けて見ると中には一枚の名刺が入っていた。

 

「○○泌尿器科

 

その裏には、「うそ」の文字と乙姫の携帯電話番号が記されていた。

 

悪い冗談だった。